大阪地方裁判所 平成11年(ヨ)10056号 決定 1999年8月11日
債権者
野口謙治
右代理人弁護士
上原康夫
竹下政行
債務者
株式会社ユリヤ商事
右代表者代表取締役
辻本俊弥
右代理人弁護士
矢島正孝
清水英雄
主文
一 債務者は、債権者に対し、平成一一年五月一日から本案判決言渡しまで毎月末日限り月額二七万六七九八円の割合による金員を仮に支払え。
二 債権者のその余の申立てを却下する。
三 申立費用は債務者の負担とする。
事実及び理由
第一申立て
一 債権者
1 債権者が、債務者に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
2 主文一項と同旨。
二 債務者
1 債権者の申立てを却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。
第二主張
一 債権者
1 当事者
(一) 債務者は、靴及び装身具一般の販売等を目的とする株式会社であり、関西を中心に四〇店舗余りの小売店を有している。
(二) 債権者は、昭和六一年九月八日、債務者に販売職として期限の定めなく雇用された労働者である。
債権者は、入社以来、販売職として各店舗にて勤務してきたが、平成一〇年一二月二六日、販売職を解かれ、以後、物流センター勤務を命じられていた。
債権者は、平成八年八月、管理職ユニオン・関西(以下「組合」という)に加入し、平成一〇年六月、債務者に組合員であることを告げ、以後、組合と債務者の間では、債権者の労働条件を巡り数度の団体交渉が行われている。
2 被保全権利
(一) 本件解雇
(1) 債務者は、平成一一年四月一日付で、就業規則一三条二号(勤務成績不良にして再三注意しても改善の見込みなく、他の職務にも不適当と認められたとき)、同五号(服務規律を乱し、または会社の業務運営を妨げもしくは会社に協力しないとき)を理由に、債権者に対し解雇予告を行い、同月三〇日、債権者を解雇した。
(2) 右解雇の具体的理由は、同月一九日付解雇理由書(書証略)によると、
<1> 販売職不適格
<2> 勤務成績不良の原因を、同僚、会社に転嫁し、自分は何らの改善の努力をしない
<3> 会社と同僚を中傷誹謗したというものである。以下、これを「本件解雇理由<1>ないし<3>」という。
本件解雇理由<3>は、債権者が、職場の労働実態につき週刊誌「関西じつわ」の取材を受け、それが記事(書証略)になったというものである。
(3) なお、債務者が解雇予告の意思表示をした当時、組合は債権者を販売職に復帰させるべく団体交渉を継続しているところであった。
(二) 本件解雇に至る経緯
(1) 債権者は、入社後、債務者のサンチカ(三宮)店、高槻店、ウメチカ店と勤務した後、平成元年九月から三番街北リーガル店勤務となった。同店は、リーガルコーポレーションとフランチャイズ契約を結び、リーガルシューズを専門に販売している店で、後述の泉の広場リーガル店も同様の業務形態である。三番街北リーガル店の店長坂部勝弘(以下「坂部」という)は、従業員(特に男性社員)を人間とも思わないひどい扱いをし、少しでも部下が自分の思うように動かないと「アホ」、「ボケ」、「カス」と罵倒して、しかも、ときには靴のかかと等で殴りつけたりもし、また、休息時間も昼食時に一五分しか与えず、棚卸しやバーゲン準備の際には、「ボランティア」と称して、無給の休日出勤をさせたりした。
しかし、債権者は、それに堪え、毎日一二時間程立ち詰めで必死になって働き、その結果、毎月発表される個人販売成績も当時二五〇人程いた販売員の中でもほぼ常時、上位一〇位以内に入る成績を収めた。
その結果、平成三年四月には主任に昇任し、泉の広場リーガル店に異動し、同年七月には、処遇は主任のまま同店の店舗責任者となった。
(2) 債権者は、平成四年二月、ストレスによる神経症に罹患し、このため、同年四月、店舗責任者を解かれ、再び、三番街北リーガル店へ配転された。
しかし、店長の坂部は債権者の病気に全く配慮せず、従前どおり休憩時間も一五分しか与えず、また、気に入らないことがあると債権者を罵倒するということを続けた。
このため、債権者の神経症による胃の痛みや不眠症はひどくなり、債権者はこの状態が続けば大変なことになると思い、思いきって、坂部に「就業規則どおりの休憩時間をください」と申し出た。
坂部は、債権者に、「アホかおまえ。黙っとれ」「俺のやり方に文句があるのか」と怒鳴り散らし、就業規則どおりの休憩時間を債権者が取ることを認めなかったが、債権者は、以後、坂部の意に逆らい、男性社員では債権者一人が四〇分の昼休みをとるようになった。
このため、坂部は、増々債権者に辛くあたるようになり、債権者も精神的に疲れ果て、同年六月の一か月間、会社に神経症の診断書を提出して休職し、治療に専念した。
(3) 債権者は、職場復帰した後の同年八月、プチ・シャンゼリゼ店への異動を命じられた。同店の店長山口(以下「山口」という)は、かねてより社員の中では部下を怒鳴り散らす「えげつない店長」と噂されていた人物で、また、商品もリーガル店とは全く異なり、これを一から覚える必要があったことから、債権者は、山口の下で新しい仕事に就くのは病あがりの身には大変だと思い、当時の常務江口にプチ・シャンゼリゼ店への異動は勘弁して欲しいと申し出たが、とりあげてもらえなかった。
山口は、しばらくして債権者の常務江口への右申し出を知ったらしく、債権者に「会社にはここで働きたくないと言ったのか。ここが不満か。不満なら働くな」と申し向け、事ある毎に債権者に辛くあたるようになった。例えば、債権者が連絡事項を山口に伝えようとしたところ、山口は、「うるさい。俺はお前が嫌なんじゃ。朝から気分悪すな」と怒鳴った上、数回債権者の足を蹴ったこともあり、また、「お前がいたら店がうっとうしいなるから、他の店の様子を見てこい。二時間絶対帰ってくるな」と言って、日曜日の忙しい時間帯に外に出したり、「お前、俺にいびられてしんどいやろ。神経症もひどなってるやろ。息するのやめたら。死んだら楽やで」とまで言われたこともあった。
債権者は、この余りの仕打ちに我慢がならず、部長多田健二(以下「多田」という)に山口の暴挙を報告するとともに、他店に異動させて欲しいと申し出、その結果、債権者は、平成五年四月から芦屋ラポルテ店勤務となった。ただ、この時、主任から主任待遇に降格されたが、職場環境は非常に良く、不眠や胃痛もなくなった。
(4) 債権者は、平成六年六月、千里店に転勤となった。同店の店長石原(以下「石原」という)は遊び好きで、社内でも借金が多いと噂されており、実際店にも度々カード会社から電話があり、その際は、取り次がないよう頼まれていた。
債権者は、同年九月、石原から借金を申し込まれ、これを断った。
そして、同年一〇月一九日、債権者は本社の多田に呼び出され、債権者の事で客やテナントを名乗る者から本社にクレームの電話がかかってきていると言われた。内容は、駅前の喫煙所でたばこを吸っている姿がみっともないとか、子供に愛想が悪いとかいうもので、債権者は、多田に対して、喫煙所でたばこを吸って何も悪いわけではなく、また子供に愛想を悪くした覚えもないと述べたが、多田からは、「クレームの電話があった事で、本来なら辞めて欲しいのだが、最後のチャンスをやる」と言われて、翌二〇日より泉の広場リーガル店への異動を命じられた。後日、債権者は社内の人物から、右のクレームの電話は石原と千里店の女性社員が仕組んだことらしいこと、また、石原は、棚卸しの時に不正が発覚して退職したことを聞かされた。
(5) 泉の広場リーガル店は、債権者が元店舗責任者をしていた店で、二度目の勤務を命じられた当時は債権者の後輩が店舗責任者を務めており、債権者にしたら屈辱的、会社としたら辞めよとばかりの配転であった。
しかし、債権者は、頑張って働き、同店では債権者が一番の売上げを上げ、また、会社の全販売員の中でも上位者として名前が出ることもあった。
同店の店舗責任者が債権者の後輩から田中へと交替となったが、債権者は田中店舗責任者と極めて良好な関係が保て、債権者及び同店の売上げも上がっていった。
(6) ところが、平成八年六月、突然、難仮ウオーク店に配転された。同店は、改装予定で、改装前三か月間の売りつくし要員で、他に配転された二名は、債務者からは問題視されていた人物であった。
商品の供給もひどく、売れない商品ばかり送ってきた。
同店の販売員は皆、売りつくしが終われば、債務者より退職勧奨があると覚悟していた。
債権者は、退職に追い込まれないよう必死に働くとともに、万が一に備え、組合に加入し、非公然の労働組合員となった。
(7) 債権者は、必死に働いた結果、債権者一人が特別売上げが大きく、同年九月には再び泉の広場リーガル店に戻ることができた(なお、元々難波ウオーク店にいた一名と異動で同店に来た二名の計三名の社員は退社した)。
そして、債権者は、田中の下で、平成九年三月までの間、前年比一一〇パーセント以上の驚異的な売上げを上げることができ、同年四月、田中が退職したのにともない、債権者は再び泉の広場リーガル店の店舗責任者となった。
債権者が店舗責任者となった後も、同年八月までは昨年対比で大きく売上げが伸び、同月の営業会議では「泉の広場リーガル店は破竹の勢いだ」とほめられた。しかし、同年九月からは昨年対比で見た場合、昨年は田中店舗責任者の下で一一〇パーセント以上の売上げを達成していた関係から、当然昨年対比率は落ち、結局、平成九年四月から平成一〇年三月までの一年間、泉の広場リーガル店は昨年比率九三パーセントの成績であった。
これは債務者の四四店舗中、中の上ぐらいの成績で、成績不良との評価には決してならない。
(8) ところが、同年四月二日ころ、多田から本社に呼び出され、
<1> 今後、店の売上げが伸びるかどうか三か月様子を見る。
<2> 三番街北リーガル店の主任山本忠之(以下「山本」という)と野村を泉の広場リーガル店に異動させる。
<3> リーガル・コンベンション(展示会)には山本を行かせ、山本に仕入れをやらせる。君は店での販売に専念するよう。と言い渡された。
これは同年二月末、紳士物ブロックの会議があった際、先に述べた三番街北リーガル店の坂部が「私の店の山本と野村を販売強化の為に泉の広場リーガル店に異動させて下さい」と申し出ていたのを、債権者が反対したにもかかわらず多田が受け入れたものであった。
山本、野村といえば債権者をかっていじめ抜いた坂部と極めて親密な人物であり、また、店舗責任者の重要な権限である仕入れの権限を剥奪されるというのは債権者にとって、相当のショックであった。債権者が、多田に、「そこまでされるのなら、責任を持ってやれない」と言うと、多田は、「それなら今からでも三番街北リーガル店へ行くか」と述べた。債権者はこの多田の言葉に不安を覚え、四月一〇日ころ、多田に「三番街北リーガル店に行った方がいいのでしょうか」と尋ねると、「坂部にいびられて六年前のようにまたストレスで倒れるぞ。このまま店舗責任者を続けろ」と述べた。
そして、同月一七日、山本、野村が、泉の広場リーガル店に異動してきた。
山本は着任するなり債権者に、「野口さんは一応店舗責任者ということになっているが、正式な主任でも何でもない。ぼくは正式な主任である。多田に野口さんの仕事ぶりを報告してくれとも言われている。また、ディスプレイおよび仕入れもお前がメインでやれと言われている。その意味において、あなたとぼくは対等である。その事を忘れないようにして欲しい」と言い、債権者の業務運営にことごとく異論を唱え、一つの店に二人の店長がいるような状態が続き、にっちもさっちもいかなくなった。
(9) 債権者は、同年六月二六日、多田が来店した際、山本がいると、どちらが店舗責任者か分からず、とても仕事はできないと訴えたが、多田からは逆に「お前を店舗責任者から外す。七月一日から三番街北リーガル店に行ってもらう」と言われた。
そして、同月二九日、本社に呼ばれ、同店への配属と、一般販売員への降格及び減給を告げられた。
債権者は、余りにもひどい仕打ちだと思い、多田に対し、管理職ユニオン・関西の組合員であること、会社が再考しないのであれば団体交渉も辞さない旨を告げると、「脅しか。今まではお前のために色々してやったのに、後ろ足で俺に砂をかけるきか」と言われた。
債権者は、とりあえず異動命令には従うこととし、組合と会社の間で、同年七月二三日に団体交渉を持ち、同年八月五日、降格・減給を撤回してもらった上、三番街北リーガル店で勤務することを合意した。
(10) 三番街北リーガル店で勤務することにしたものの、坂部の債権者への対応は、以前にも増してひどいものであった。また、債権者が少しでも販売しようと店頭近くに立つと、坂部は、「お前は奥に行っとけ」と怒鳴り、債権者は販売員としての仕事もまともにさせてもらえないような状況であった。以前は新人社員がしていた窓ふきも、坂部は債権者一人にやらせた。さらに、坂部は、店にいない時は、他の従業員に債権者の行動を監視させ、逐一報告させていた。そして、債権者は他の従業員からも挨拶もしてもらえず、全く村八分の状態にされた。
なお、坂部は、「楽しくはないやろ。それは、お前、自分が招いているからや。自分が招いたことや、自分がしょうもない、団交なんかするからや。会社にも印象悪い。おいらにも印象悪い。みんな、悪いんよ。お前が悪いんよ。お前が悪いんよみんな」と明らかに不当労働行為にあたる発言もしている。債権者は、思い余って、多田に訴えたが、「お前がもっと心を開いたらええんや。四の五の言う前に売れ。そしたら話しを聞いたる」と全く話しを聞いてくれなかった。
(11) 債権者がこのような状況下にあった時、組合より、「週刊誌の『関西じつわ』が『労働ビッグバン時代がやってきた』というシリーズものの記事を書くため、いじめ、リストラ問題を取材したいと言ってきているが、取材に応じないか」との話があった。
既に何人かの組合員が取材に応じ、組合としては現在の企業におけるいじめ、リストラ問題を社会に告発する一つの場と位置付けていた。
また、債権者は、記事が掲載されても、取材に応じたことで解雇をした会社はかってないと聞かされ、社会に労働現場の実態を知ってもらい、読者が少しでもいじめ、リストラ問題を考えてくれたらと思い、取材に応じた。ただ、債権者の場合は、会社名、実名が出たら債務者からどんな仕打ちをされるか分からないと思い、会社名、実名は出さないことを条件とした。そして、債権者からの取材により作成された記事が同年一〇月一二日発売の「関西じつわ」に掲載された。しかし、右記事は債権者の意図に反し、「リーガル」という名前と店舗の写真を掲載していた。
債務者は「関西じつわ」に掲載されたことを直ちに知ったらしく、同月一六日、債権者は、多田から呼び出され、事情聴取を受けた。その際、債権者が組合からの指示により取材に応じたことは事実であること、そして記者には自分の体験談を語ったこと、記事の内容は記者が書いたことで自分は預かり知らないが、誇張はあるものの真実に近いものであること、会社名、実名は出さないよう申し入れた上で取材に応じたことを説明した。
(12) 同年一二月一六日、店舗予算達成報奨金が支払われる際、債権者は坂部店長よりお前は目標を達成していないから「頭を垂れて謝れ」といわれ、いわれたとおりにすると、「もっと頭垂れんねん。でけへんのか」と屈辱的な仕打ちを受けた。そして「会社に反旗を翻す人間はいらん」、「環境を変えろ」、「本社に行って相談してこい」と怒鳴り散らされた。それで債権者は本社に行ったところ、二階の応接室に呼ばれ、そこには会長辻本俊弥(以下「辻本」という)、多田、総務部の杉本望がいた。この席で、多田から「売上げがしんどい時にお前のこと等かまってられへん」とか、「もう店へ戻れんやろ。敵意のあるところでやれるか」「行く店もないやろ」とか言われたので、債権者は「敵意が満ちているところでもやります」と答えた。しかし、辻本からは「野口さん、もう自主退社したら」とも言われ、最後には「ちょっと休みとって考えろ」と申し向けられ、同月二五日まで有給休暇をとることになった。
そして、事態を打開するため、同月二二日、組合と債務者との間で折衝が持たれたが、席上、多田から「野口を配置する店舗も部署もない」との話があり、これでは事態の打開が図れないことから、組合の方から「とりあえず団交で問題を解決するまでの間、暫定的にどこかの部署に野口を配置して欲しい」と申し入れたどころ、多田は、「検討するので、一二月二六日午前九時半に本社に来るように」と答えた。
そこで、同日に債権者が出社すると、多田から「本日から物流センターに配属する。この異動は暫定的な措置ではない」と告げられ、販売主任職待遇を解かれ、給与も大幅に下ると申し渡された。
(13) 組合は、平成一一年一月二七日、同年三月一二日と債権者に対する降格、減給及び配置転換の撤回を求め、組合は団体交渉を行い、さらに、同年三月末に団体交渉の開催を債務者に申し入れたところ、前述の如く、同年四月一日付で解雇予告の意思表示がなされた。
(三) 本件解雇の無効
(1) 正当理由の不存在
先に述べたとおり、本件解雇理由は、<1>販売職不適格、<2>勤務成績不良の原因を、同僚、会社に転嫁し、自分は何らの改善の努力をしないこと、<3>会社と同僚を中傷誹謗したことの三点である。まず、<1>及び<2>は、販売職としての適格性、販売職としての勤務態度を問題とするものであるが、債務者は前記のとおり、平成一〇年一二月二六日、「暫定的にではなく」すなわち、確定的に債権者を販売職から解いて、物流センターに勤務させているのであって、本件解雇予告時において債権者は販売職にはないのである。
従って、物流センターにおける勤務成績、勤務態度を問題とするのならともかく、販売職としての適格性、勤務態度等を理由に解雇することはそもそも許されない。
<1> 本件解雇理由<1>について
債権者に販売職不適格とされる事実は存在しない。
まず、販売成績については、前述のように債権者は債務者全社の販売員の中でも優秀な成績を収めており、その結果、店舗責任者ともなり、店舗責任者としてもまた優秀な成績も収めている。債権者をして販売成績不良ということで解雇するならば、債務者において解雇されるべき従業員は何人もいるはずである。
もっとも、泉の広場リーガル店で二度目の店舗責任者を務めていた時期の内、平成一〇年四月以降売上げが落ちたことは事実である。しかし、これは、前述の如く債務者が山本を同店に異動させ、債権者の店舗責任者としての権限を奪い、管理体制を混乱させた結果である。そのことは、山本が同店に配属される以前の平成九年四月から平成一〇年三月までの間、債権者は店舗責任者として、優秀な成績を収めていたことからも明らかである。
また、泉の広場リーガル店の店舗責任者を解かれ、三番街北リーガル店販売員とされた平成一〇年七月一日以降の債権者の販売成績が伸び悩んだのも事実である。
しかし、これも同店長坂部によるいじめ、また最も売上げの伸びる店頭近くに債権者を立たせない等の妨害行為の結果であることは明らかである。
債権者がかって個人販売成績において全社販売員の十傑に入っていた事実は、坂部のいじめ等さえなければ優秀な成績を収められたことを優に物語るものである。
また、債務者は、債権者が注意指導を受け入れず、反抗的であると言う。しかし、債権者は、販売員の時も店舗責任者の時も指導を受け入れてきたものであって、債務者の主張するような事実は一切ない。唯一「反抗」したと言えば、坂部に就業規則どおりの休憩時間を与えてくれるよう要求し、坂部の了解を得ないまま就業規則どおりの休憩時間をとり続けたことだけである。
<2> 本件解雇理由<2>について
勤務成績不良の原因を転嫁しているとの点は坂部とのことを指すのかと思われるが、坂部からいじめを受けていたのは事実であり、また、債務者が何らかの改善措置をとらなかったのも事実であって、責任を転嫁するとの評価は全くあてはまらない。
<3> 本件解雇理由<3>について
債務者は、「関西じつわ」の取材に債権者が応じ、それが記事として掲載されたことをもって会社と同僚を誹謗中傷したとし、これは就業規則一三条五号の「服務規律を乱すこと」に該当するとする。右「服務規律」の具体的内容は就業規則二九条四号の「常に品位を保ち、会社の名誉を害し、信用を傷つけるようなことをしないこと」だと思われる。
ところで、債権者がした行為は取材に応じ、自己の体験談を語ったということのみである。仮に「関西じつわ」の記事が債務者の名誉、信用を傷つけるとしても、記事を書いたのは「関西じつわ」の記者であり、出版したのは「関西じつわ」自体であって債権者は記事の内容自体には何らかかわりを持たない。しかも記事の内容が概ね真実であることはこれまで述べたことからも明らかである。さらに、債権者は現在の企業におけるいじめ、リストラ問題を社会に知らしめ、考えてもらう目的で取材に応じているのであって、何ら違法な行為ではない。
(2) 不当労働行為
前述の坂部の「楽しくはないやろ。それお前、自分が招いているからや。自分が招いたことや、自分がしょうもない団交なんかするからや。会社にも印象悪い、おいらにも印象悪い。みんな、悪いんよ。お前が悪いんよ。お前が悪いんよみんな」との発言、本件解雇は債権者を販売職に戻すか否かを巡り組合と団体交渉がなされていたさ中に行われたものであること等からすると、債権者は組合員であるが故に解雇されたものであって不当労働行為として無効であることは明らかである。
3 賃金
債権者の賃金は毎月一五日締め、月末払いで、解雇前三か月の平均賃金は二七万六七九八円である。
4 保全の必要性
債権者には妻と四歳の子がおり、妻は無職でその生計は債権者の賃金のみによって支えられている。早急に賃金の仮払いがなされなければ、たちまち債権者の家族の生活は困窮する。
二 債務者
1 当事者
債権者の主張1(一)の事実は認める。
同1(二)の事実の内、債権者が組合に加入した時期は知らない。
債権者が組合員であることを債務者に告げた時期は否認する。右時期は、債務者が債権者に対し、平成一〇年六月二九日に泉の広場店の店長職解任の通告を行った際であり、組合との団交はその時期から販売職解任をめぐってはじまり、同年八月五日付で組合との間で降格処分を認める合意が成立し、坂部の部下に配転した後に本件紛争を生じているものである。
2 被保全権利
(一) 債権者主張の2(一)(二)の事実は認める。債務者と組合は、平成一一年三月一二日まで、平成一〇年一二月二六日付でなされた債権者の販売職解任を巡って数回団交を重ねたが、債権者を販売職に復帰させないし、今後債務者内の職場に配置する部署がないとの債務者側回答によって交渉は決裂し、本件解雇通知となったものである。
(二) 解雇に至る経緯は次のとおりである。
(1) 坂部及び山口は、債務者の職場の中で指導的地位にある店長で、部下に対するしつけ及び教育が厳しく、時には粗野な言動を用いるものの、債権者も認めるように、指導が明快であるため債権者を除く全社員に敬慕されている。
(2) 債権者は、入社以来、外形的あるいは一時的には上司、同僚の指導に従うことはあるが、基本的にはその指導を受けいれることはなく、最後には上司や同僚とことごとく対立してきたものであって、歴任した職場において上司、同僚との間で確執をかかえる結果となっており、そうした勤務態度と状況のために債務者における人物評価が芳しくなく、債権者自身のストレスとなっていたのである。
(3) 債務者において、これまで坂部、山口をはじめとして債権者がいじめられたと主張する社内の関係者に対して事情を聴取した結果、関係者全員から、債権者が、指導に素直に従わず、かといって指導方針に対して議論する姿勢は全くみられず、指導する者と指導の内容を全面的に糾弾批判する主張を繰り返すため、ついつい口論に発展する経過をたどり、社員の誰一人とも友好関係を結べない、また、交友関係を結ぼうとしない結果となっているとの一致した報告に接している。
(4) 債務者では、前述のように、債権者の処遇には窮していたが、債権者の出勤状況には問題はなく、協調性はないものの積極性は認められ、入社一〇年をこえる実績もあり、それまでの上司とはことごとく対立してきたもののこれら上司の指導は理解できていると考え、思い切って店長に昇格させ部下を指導させてみることによって販売、技能や勤務態度が飛躍発展するのではとの社内の意見が採用され、平成九年四月にリーガル靴フランチャイズショップである泉の広場店の店長(販売責任者)に抜擢するとともに、多田の指導のもとに、部下をはじめとして社員相互の間で良好な社交関係を築くよう、その努力がまた柔和な接客姿勢に発展するよう期待した。
(5) しかし、債権者は、泉の広場店の店長に赴任してからも、ことあるごとに部下と対立し、商品の展示方法や店舗施設の管理又は在庫商品管理について、これまでの社内の成果や教訓をとりいれず、部下の反対を無視して奇異な方針で営業を続けるとともに接客態度も改善がなかったため営業実績が振るわず、平成一〇年三月から四月にかけて債務者職制より再三にわたって指導したが聞き入れないため、実績の優秀な坂部が指揮する店舗(三番街北店)から優秀な販売主任(山本、野村の両社員)を泉の広場店に派遣し、商品展示や接客よび販売商品の重点設定を改善したりした。債権者は、こうした会社の措置に対して猛烈に反発したが、基本的には会社の方針に則って議論する姿勢はみられず、一個人的怨恨に基づく弁解に終始しただけであった。
フランチャイジーであるリーガルショップは、リーガル社の販売戦術に則った販売営業手法に一定拘束される部分はあるものの、会社や他の先輩店長との間で円滑な議論を行い、社内の支持をとりつけることによって個々の店長の独自の方針を実施できないことはないが、前述してきたように債権者には硬直した思考傾向が顕著であり、かつ議論において劣勢になると決って他者が債権者を陥れていることに理由を誘導するのが常であるため、実務に適った指導あるいは議論の組み立ては不可能となっているものである。
(6) 平成一〇年四月より六月末までの間、多田が債権者を諭した結果、同年六月二九日に泉の広場店の店長職を解き、降格とし、それに伴い減給となることを債権者が了承するに至った。その際、債権者は、突如、多田に対して、組合に加入していることを告げ、「これから組合との間で団交がはじまりますよ、会社も覚悟しておかれた方がいいですよ」と申し向けるに至った。
(7) 組合から、同年七月二日、債務者宛に、同年六月三〇日付の労働組合加入通知書(書証略)と団体交渉申入書(書証略)がファックスにて送信されてきた。
債務者と組合及び債権者とは、同年七月二三日に団体交渉をもち、降格処分とこれにともなう減給処分について交渉し、組合側は両処分の撤回を要求したが、債務者において前述してきた経過を説明するとともに、債権者には技能と勤務態度の両面において販売職としての適格に問題があることを訴えた結果、同年八月五日付で、泉の広場店の店長職を解くこと、それにともなう減給は最小限に止めること、債権者は坂部の指導のもとで販売職としての識見と技能を研鑽し直すことについて合意するに至り、和解が成立したものである。
(8) 右団交の途上、債権者は、坂部や同僚たちの債権者に対するいじめを主張し、そうしたいじめが債権者の勤務成績を阻害している旨主張したが、債権者が主張するいじめ(本件申立とほぼ同様の主張であった)と債権者の勤務成績との間の因果関係は明瞭ではなく、また債務者側では、債権者が上司や同僚の指導を頑に受けいれないところに問題があり、そうした問題が泉の広場店の店長不適格の判断の基礎にあること、債権者が他の社員全員との間で確執を生むのは主に債権者側の協調性のなさにあると考え、債権者および組合役員にそうした意見を提出したところ、債権者も組合役員もこうした問題を改善することを誓約して、前述の和解に至ったものである。
(9) 債権者は、右和解以後、坂部のもとで勤務していたが、債権者が組合の協力のもとに、「関西じつわ」なる地方雑誌に、ほぼ投稿に近い形の取材協力をして、債権者個人の一方的な印象をもとに、債務者及びその社員並びにリーガル社を誹謗中傷する記事が掲載されるに至り、社内及びリーガル社では騒然となり、特に三番街北店では坂部以下の店員一同が債権者個人に対して反発と憤りをあらわにするようになっていた。
債務者としては、債権者に対して、そのような記事掲載に協力したことの真意や問題点を聴取したり諭したりしていたが、債権者は報道機関の表現の自由をたてにしてわるびれるところはなく、事実に沿った報道であると主張して譲らず、問責される筋合いはないと反発していた。
そうした中、三番街北店内で債権者と他の社員との間の感情的対立が深刻となって行き、紛争にまで発展したので、債務者は、平成一〇年一二月二六日付をもって、急遽、債権者を同店販売職から解任し、当面の配置としては暫定的に物流センターに配置することとした。
債務者が、債権者に対して、関西じつわの掲載記事に関して事情聴取と説諭を行っていたところ、組合から、同年一一月一〇日付文書(書証略)にて、債務者に対する事情聴取を中止するよう抗議申入れがなされた。
(10) 組合からは、平成一一年一月四日付で、前年一二月二六日付の配置転換とそれにともなう給与体系異動による減給に関して団体交渉の申入れがあり、平成一一年一月二七日に第一回の団体交渉が行われ、債権者及び組合は配置転換の撤回を要求したが、債務者からは、債権者は債務者及びその社員に対して敵対心をもっており、債務者側の営業方針に従って販売職を務める意思もなくその職務適格も欠くことを理由に、これ以上の処遇は困難である旨の意見を提出した。
団体交渉の席上、債務者の意見に対し、組合は、坂部以外の営業現場であれば債権者は馴染んで職務を全うできることを主張し、適当な他の店舗の販売職への配置を提案した。
第二回目の団体交渉(同年三月一二日)がもたれるまでに、債務者代表取締役と債権者との間で個別交渉(退職勧奨)や債務者訴訟代理人と組合との間で円満解決のための協議がもたれるなどしたが、債権者及び組合は、債務者の意見や事情については一顧だにせず、販売職復帰の要求に固執し続けたため、第二回の団体交渉となった。
第二回の団体交渉では、債務者は、そのあらゆる販売店舗で債務者の配置を受けいれる部署がないことを理由に、債権者の販売職への復帰は不可能と回答し、暫定的に配置している物流センターでは債権者を配置し雇用を続ける合理的理由がないことを回答した。債権者及び組合は、どの店舗関係者もが債権者の受け入れを拒否しているとの事実を疑い、販売職への復帰は可能として見解が対立し、交渉は決裂した。
(11) 債務者側では、団体交渉を決裂を受けて、本件解雇を機関決定し、これを債権者に対して通知するに至っている。
(三) 解雇事由
解雇事由は、債権者主張の2(一)(二)に記載のとおりである。
(1) 債権者は、販売専門職として採用され勤続していたものであるが、前述のように、接客上の失態もあり、上司、同僚との対人関係における協調性が欠如し、内心では坂部の営業方針に対して頑に反抗していたため、坂部の指導を素直に学習していなかったために、坂部の指導する業務水準の域に達することができず、販売職としての技量が欠如し、そのため販売実績を挙げられなかった。また、配置された店舗において他の従業員との間に感情的対立が生じて紛議の解消が困難な場合、他の店舗に配置換えするところであるが、「関西じつわ」の記事掲載以降は、債務者の全社員は債権者と同じ職場で勤務することを嫌っていたため、即時には販売職への配置を検討することは極めて困難な状況にあった。全社員が債権者の配置受けいれを嫌う理由は、職場において債権者との対立が生じるとその事実をもって債権者と組合から何らかの糾弾を受けるという恐れであり、債務者の経営としては解決のあてのない問題であった。
(2) 債権者は坂部との確執が相手方からのいわれのない一方的な人格攻撃であることを理由にして、成績不良あるいは会社の販売営業方針にしたがった成果を挙げ得ないと弁解する。
しかし、債務者の面従腹背かつ独善的な勤務態度とその問題から生じる同僚、上司との無用な対立は、決して坂部との間だけのものではない。前述した泉の広場店での業績不良や方針違背を問題とされた際でも、債権者は、常に最初のうちは自分は努力しているが部下がいうことを聞かないなどと子供じみた弁解に徹するところがあり、自分の努力が至らないことを認めざるを得ない状況になるととたんに指導を受けいれ、しかし実際には指導どおりには業務を遂行できない体質を有している。
(3) 「関西じつわ」の記事は、すべて債権者が説明したものである。
3 賃金
賃金の支払日、解雇前三か月間の平均賃金の金額は争わない。
第三当裁判所の判断
一 債務者は、靴及び装身具一般の販売等を目的とする株式会社であり、関西を中心に四〇店舗余りの小売店を有していること、債権者は、昭和六一年九月八日、債務者に販売職として期限の定めなく採用された者であること、債権者は、雇用後、販売職として各店舗にて勤務してきたが、平成一〇年一二月二六日、販売職を解かれ、以後、物流センター勤務を命じられたこと、債務者は、平成一一年四月一日付で、就業規則一三条二号(勤務成績不良にして再三注意しても改善の見込みなく、他の職務にも不適当と認められたとき)、同五号(服務規律を乱し、または会社の業務運営を妨げもしくは会社に協力しないとき)を理由に、債権者に対し解雇予告を行い、同月三〇日、債権者を解雇したこと、右解雇の具体的理由は、
<1> 販売職不適格
<2> 勤務成績不良の原因を、同僚、会社に転嫁し、自分は何らの改善の努力をしない
<3> 会社と同僚を中傷誹謗した
という三点であることは当事者間に争いがない。
二 そこで、右解雇事由の有無について検討する。
まず、債務者が債権者の販売職不適格をいう部分は、接客上の失態、上司、同僚との対人関係における協調性の欠如、販売職としての技量の欠如、販売実績の不足を挙げるのであるが、接客上の失態としていうところは、店内を走りまわる子供を睨み付けたとか、商品が売れなかったときに不機嫌な態度をとるといった程度の事柄であって、解雇事由となるほどの事柄ではない。また、対人関係における協調性の欠如については、(書証略)によれば、債権者と坂部、山口、石原、山本等との間に確執を生じたことが一応認められるものの、他方、右(書証略)、(書証略)によれば、三番街北リーガル店における坂部については、坂部自身が認めるように、バカとかアホといった表現で従業員を罵倒し、ときには粗暴な行為もあったこと、プチ・シャンゼリゼ店における山口も粗野な言動をする者であったが、債権者が他店での勤務を望んだことを知って嫌がらせに辛くあたり、ときには暴力を振るったこと、千里店では、石原からの借金の申込みを断ったため、同人に嫌がらせを受けたこと、山本との関係も、山本が坂部と親しい関係にあったことから債権者と坂部の確執が反映されたものであることが疎明される。上司の部下に対する言動としても、バカとかアホといった人格を傷つけるような言動が許されるはずはなく、これに反発したことをもってその従業員の不利益に扱うことはできないというべきであり、山口、石原、山本との確執についてもその非の多くは同人らにあるというべきであって、右確執をもって債権者に協調性がないとして不利益な扱いをすることはできない。しかも、(書証略)によれば、債権者は坂部に反発せず、表面的にではあれ、これに従っていたというのであり、就業規則の解雇事由に該当する事由はない。さらに、販売職としての技量が欠如するという点は、抽象的な指摘に止まり、明確ではないが、債務者においても、理由はともあれ、一時は、主任に昇格させ、あるいは店舗責任者としたこともあるのであって、販売実績からみても、解雇事由となるほどの技量の欠如があったとはいえない。販売実績については、その店舗や販売態勢の諸条件によって変動があるもので、これらを総合して評価しなければならないものではあるが、他の従業員と比べて、解雇を必要とするほどの水準であるとは到底いえず、就業規則の解雇事由にあたるとはいえない。
次に、勤務成績不良の原因を、同僚、会社に転嫁し、自分は何らの改善の努力をしないという点であるが、(書証略)によれば、債権者が泉の広場リーガル店の店舗責任者であった平成一〇年四月以降は、三番街北リーガル店から異動してきた山本が債権者の指示に従わないという事態が生じ、また、債権者が、同年七月一日に三番街北リーガル店に異動してからは、債権者が組合員であることを明らかにしたこともあって、店長の坂部から販売員としての仕事もまともにさせてもらえないような状況となったことが疎明され、これらが勤務成績に全く無関係であったとはいえないし、勤務成績不良の原因が同僚や債務者の体制にある場合に、そのことを述べること自体は解雇事由となるものではない。債権者が改善の努力をしなかったか否かは、程度の問題であって、債務者の期待する程度に至っていないとしても、これが就業規則の解雇事由となる程度のものとはいえない。
債務者と同僚を中傷誹謗したという部分は、債権者が雑誌の取材に応じたことをいうのであるが、(書証略)によれば、債権者が取材に応じたのは、現在の企業におけるいじめやリストラ問題を社会に告発し、引いては組合活動に理解を得るという組合の方針に基づき、その依頼によるものであり、債権者としても、社会に労働現場の実態を知ってもらい、読者が少しでもいじめやリストラ問題を考えてくれたらとの思いにより、しかも、債務者の会社名、実名は出さないことを条件としたものであること、記事は、債権者の説明に基づく部分が多くを占め、その内容は債権者の本件における主張と概ね同じであるものの、記事自体は雑誌記者の判断によって掲載されたものであること、同年一〇月一二日発売の「関西じつわ」に掲載された記事は、「リーガル」という名前と店舗の写真を掲載していたが、これは債権者が承諾したものではないことが認められる。また、(書証略)によれば、記事の内容は、債務者の店舗でいじめがあるというもので、Aという店員が、店長から暴言や暴力を受けたこと、休憩時間を与えられないこと、借金の申込みを断ったところ嫌がらせを受けたこと、リストラ要員とされたこと、降格されたこと、従業員から黙殺されていること等を記載している。右のAは債権者をさすものと推認できるが、債権者が、三番街北リーガル店において、坂部から暴言を受け、ときには粗暴な行為を受けたこと、プチ・シャンゼリゼ店においては、山口から嫌がらせを受け、暴力を受けたこと、千里店では、石原から嫌がらせを受けたこと等は前述のとおりであり、また、(書証略)によれば、坂部は、就業規則に定められた休憩時間を与えないといった扱いをしていたこと、債権者が、閉店する店舗の売り尽くしを担当させられ、リストラ要員と感じたこと、泉の広場店では、営業方針等を巡って山本と円滑を欠き、降格となったことの各事実を一応求めることができる。
ところで、労働組合の組合員が、組合活動として、職場環境等の労働問題について社会の理解を得るために、その実態を公表したり、意見を述べることは、特段の事情がないかぎり、正当な組合活動に含まれるものであり、これによって使用者が不利益を被ることがあるとしても、これをもってその労働者を解雇したり、不利益に扱うことは許されないというべきである。これを本件についてみるに、債権者が取材に応じたのは、組合の方針に基づくもので、組合活動の一環ということができ、取材に応じた内容は、概ね職場環境等の労働問題に限定されており、また、その内容も、疎明される事実と大きく異なるものではないことからすれば、債権者が雑誌の取材に応じたことは、正当な組合活動の範囲に止まるもので、債務者はこれを解雇事由とすることはできないというべきである。
以上によれば、債務者主張の解雇事由は、いずれもその就業規則の解雇事由にあたらないか、解雇事由とすることができないものであり、本件解雇は、解雇権の濫用として無効である。
三 債権者の賃金が、毎月一五日締め、月末払いで、解雇前三か月の平均賃金は二七万六七九八円であることは、当事者間に争いがない。
四 (書証略)によれば、債権者には配偶者と四歳の子があり、妻は無職でその生計は債権者の賃金のみによって支えられていることが疎明され、保全の必要性を肯定できる。
なお、債権者は、債務者との間で従業員たる地位を仮に定めることを求めるところ、前述のとおり、本件解雇が無効であるから、債権者が債務者の従業員たる地位を有するとはいえるものの、右申立てのような仮の地位を定めても、これによって法的な効果が生じるものではないから、特段の必要性がない以上、このような仮の地位を定める必要性はないものといわなければならない。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判官 松本哲泓)